ガーネット 熊猫
目的があったわけではない――
フレア・フィフスは、灯りの点いていない部屋の中で、そう思った。
灯りなど点けなくても、この街は十分明るい――むしろ夜のほうが。
外に背を向けながら窓枠に浅く腰掛けて、顔だけで外を見やる。
さっき風呂に入ったせいで、髪は少し湿っている。夜風になびく事はなかったが、
かわりに絹擦れに似た音をたてた。
艶のある黒髪を、腰まで伸ばした少女である。
黒いタンクトップ。男物の焦げ茶の乗馬ズボン。
華奢な体つきでありながら、なよなよした感は感じられない。
歳は16歳。抜けるような白い肌が、仄暗い部屋にその姿を溶け込ませまいとしていた。
部屋に灯りがないせいで、まだ幼さの残る顔の半分を濃い影が覆っている。
ぴんと張った、澄んだ瞳の色は鮮やかな赤。
彼女が見下ろしているこの街の、どの灯よりも赤い、赤。
この街――クーロン郊外に位置する、カジノの街ズィーノ。
フレア自身、ギャンブルには全く興味がないのだが、ソフィニアの魔術列車を
少しでも長く満喫していたいと思ってできるだけ遠方へ、と切符を買ったら
ここまで来てしまったのだ。
到着したのは昨日。駅で買ったガイドブックを見なくても、クーロンの治安は
最悪だという事は知っていたから、観光をする気にもならず、今日は宿から一歩も出てい
ない。
切符代のせいで、財布の中身はほとんどない。かといってギルドに登録すらしていない
自分がまっとうな依頼を受けれるとは思えないし、またこんな街では受けたくない。
宿代が安いのは助かったが、窓、ドア共に鍵がかからないので
いつ泥棒が入ってくるかも知れなかった。
(明日、出よう…)
窓枠にまたがるようにして、体勢を変える。片膝は立てて、もう片方を
ぶらぶら(床に足が届かないのだ)揺らしながら、今度は部屋の中を見渡す。
あるのはベッドと、水差しとコップの乗った小さな丸テーブル、そして椅子が一脚。
奥のほうに洗面台があるが、錆びて使えない。
ベッドの中身はさすがに藁という事はなかったが、スプリングがいかれていて、
床に寝たほうがよほど寝心地がいいのではないかと思える。
今は、脱いだクリーム色の上着が折りたたまれて置いてある。
その上に、そっと影を落としている、細身の剣。
白い陶磁器の鞘にきっちりと納まったその姿は、少女そのものを連想させた。
スペースを確保するためだろう。クロゼットなどなく、かわりにフックが五つほどあるだ
けである。
そのうちひとつに、太いバンドのザックがぶらさがっている。
旅費が稼げないなら、あの中身のどれかを売らなければならないだろう――
もっとも、この街の相場は知らないから、どれだけの足しになるかわかったものではない
が。
「よっ」
とん、と身軽に窓枠から降りて、窓の下にきちんとそろえられたブーツを履く。
紐は緩めたままでベッドに近寄ると、そのままぼすんと座る。
瞬間――
突如響いた轟音が、騒がしいズィーノの街をさらに音で満たした。