<A request of the vampire hunt!> 葉月瞬
その町は、砂漠の傍に位置する小さな町だった。
今にも砂漠に飲まれそうな、裏寂れた町。そんな、小さな町でその事件は起こっていた。
まだ年端もいかない少女の死体が、裏路地で発見されるところからその事件は始まった。
少女の母親は、なぜ、自分の娘が、と嘆き悲しんだが、誰も答えを見出せずにその事件は
幕を閉じた。当時、その人形の様な幽美な相貌を妬まれ、苛められていた少女は、それを
苦に自殺した。事件はそんな些細なことで幕を降ろす、筈だった。その当時、捜査に当た
っていた自警団の一人が首筋に小さな二つの穿孔を見付けなければ……。
次に発見された死体は、その事件が起こってから約三ヵ月後だった。今度は学校に通え
るほどの年齢で、前回の事件と同じくまだあどけなさの残る少女だった。この少女も、人
目を引くほどの美貌で、前回同様二つの小さな穿孔が首筋に見つかった。自警団も流石に
不審に思ったが、何かの薬を注入されたのだろうと、事に当たることにした。その時、犠
牲になった少女は、孤児だった。
それから約二ヶ月経った後、再び変死体が発見された。今度は小川に捨てられていたの
を、農作業に向かう途中で農夫が発見したのだった。今度は14歳くらいの少女で、前回、
前々回同様、人目を引くほどの美貌の持ち主だった。今回は、彼女の許婚と名乗る若者が、
涙を止め処もなく流し続けた。「どうして、どうして」と繰り返す言葉が印象的だった。
彼女の場合、自殺は考えられない。結婚を一ヵ月後に控えていたこともあり、式の日取り
等許婚と幸せそうに話し合っていたという証言が幾つも出て来たからだ。そして、またも
や首筋に二つの小さな穿孔が……。
流石の自警団も、本腰を入れて捜査に当たることにした。
当たって、砕けた。
早速、捜査が行き詰ったのだ。
流石に目撃者の少ないこの様な事件ばかりは、町中に情報網を張っている自警団と言え
ども少々荷が勝ち過ぎたようだ。情報が少ない上に変死体が上がる場所等の法則性が見出
せない。その上、殺された少女達の接点も全くと言って良いほど無いのだ。
しかも、犯人は吸血鬼であるという可能性が非常に高い。
吸血鬼相手では、恐らく自警団では歯が立たないだろう。ミイラ取りがミイラになって
しまう。
困り果て、考えあぐねた自警団の団長であるボルダー氏は一つの決断を降した。
ギルドに依頼する事にしたのだ。
その際、困った事が一つあった。
高額になりがちな報酬の事である。
その問題は、一人の団員に相談したところ、解決の糸口が見つかった。
村中の戸口を回って、義援金を募ったのだ。
皆心では、早々に事件を解決して不安要素を取り除いて欲しいと願っていたので、快く
承諾してくれた。その為、かなりの額が集まった。
かくして、ボルダー氏の決断は実行されたのだった。
『吸血鬼を退治して下さい。 ミンラン自警団団長ボルダー』
その依頼が世界中にばら撒かれるのに、大して時間を費やさなかった。ギルドを通した
正式な依頼なので、各地から腕利きのヴァンパイアハンター達が集っている、筈だった。
筈だったのに、その酒場にはそれらしい客が二人しか居なかった。
未だ、二人しか。
礫がその酒場“砂漠の虎”を訪れたのは、そんな折りだった。
◆◇◆
礫がギルドからの依頼書を片手に酒場の扉を開くと、既に二人の先客が居た。
その二人は酒場の一隅に陣取って、誰かを待ち焦がれている風だった。
奇妙な二人だ。
少なくとも、礫の目にはそう映った。
二人の内一人、小柄で華奢な身体つきの方は、全身黒尽くめだった。一目で砂漠地方の、
何処かの民族の伝統的衣装だと推定できる。ゆったりとした黒の布地を天辺から爪先まで
すっぽりと覆い、口元はベールで隠している。何処と無く日の光を避けているように見え
る。その漆黒の中に際立つものがあった。
白。
白い仮面。
闇色の衣装とは対照的に、その仮面だけ浮かび上がる様に顔に当たる部分に装着されて
いた。それは、まるで、デスマスクを連想させられる。見事なまでに美麗な曲線を描いた、
芸術作品だった。
その白に嵌め込まれた赤い瞳が、礫を真っ直ぐ見据えていた。真紅のその色は、白い仮
面を際立たせていた。
顔を隠し、身体の線もだぶ付いた衣装に隠れているが、女性であることは歴然としてい
る。それは、華奢な身体つきと丸みを帯びた肩の線から窺えた。
もう一人は、男性で、不思議なことにウクレレを背負っていた。
何故、ウクレレ? と礫は思ったが、口には出さなかった。
そして、更に奇妙なことに、彼の腰には二丁の草刈鎌が据えられていた。
(草刈鎌……?)
草でも刈るつもりだろうかと、子細に観察していくとそれはベルトに無造作に挟み込ん
でいた。恐らく投げて攻撃するのだろうそれには、手元に引き寄せる紐のようなものは見
当たらなかった。
(難儀な武器だ……)
礫は、こっそりと溜息をついた。
異質な雰囲気を身に纏った、ちぐはぐな二人。
成るべく関わり合いにならないようにと、少し離れた席に腰を落ち着かせる礫。
静かに、時は刻まれていく――。
◆◇◆
最初、その男が入って来たことに礫は気が付かなかった。
その男は、静かに入ると、店の入り口付近で呆然と立ち尽くしていた。
草臥れた風体の男が一人。
戸口に悄然と佇む男の様を確認した酒場の主人は、すぐさま彼に声を掛けた。
「よぅ!待っていたぜ。ボルダーさん」