<探索依頼> 葉月瞬
『レーナを探してください』
その張り紙を前にして、礫[れき]は一瞬思考が停止した。
(レーナ?レーナって…誰?ってか、何?)
そこは、町の中央広場の一角にある酒場“海鳴り”の告知コーナーだった。表に張り出
してあるので、通り掛かった者でも見ることが出来る。だからなのか、町の人間の他愛も
ない用事や仕事の募集要項などが所狭しと張り出されていた。勿論、酒場の主人の検閲が
有る事は有るのだが。
礫は旅を始めてからずっと、立ち寄った酒場の告知コーナーは必ずと言って良いほど確
認することを自分に義務付けていた。旅の資金になりそうな告知が無いかどうかを確認す
る為である。
実際、どんな仕事でもこなせる自信はあった。“何でも屋”というと少々語弊があるが、
とにかく要領良く何でもこなして来た事は自負している。要するに、飲み込みが早いのだ。
人から良く「お前は、要領が良いな」と言われるが、それは礫自身も確信めいたものを認
識していた。
とにかく、その張り紙を見た礫は一瞬後には値踏みをしていた。
と、言うのも、ここの告知コーナーにはもう既に他の張り紙は何者かに取られていて、
例の張り紙だけが寒風の中にはためいていただけだったからだ。
(誰も引き受ける気が無いのか…。ってか、幾らなんだ?それから、何処に行けば値段交
渉が出来るんだ??)
それすらも書いていないというのは、如何にもおかしい。
詳細は一切触れるな、でも依頼はこなしてくれじゃ、腑に落ちない。
人間、如何にも腑に落ちない事というのは、逆に興味を惹かれるものだ。礫は、それが
顕著に現れる人だ。だから次の行動に移すのは早かった。
張り紙の内容を不審に思った礫は、それを引っ手繰ると依頼の仲介者である酒場の主人
に詳しい話を聞いてみる事にしたのだ。
◆◇◆
店の中に入ると、閑散としていた。
もう正午を2時間も過ぎているということもあって、昼食を摂る為に訪れた客達が店を
出て、その後片付けもそろそろ終盤に近付きつつあると言う頃合だからだ。
何故か、隅の席で酒を啜っている和人―紋付袴とかいうやつを着ているから恐らくそう
だろう―が目に付く。静かにちびり、ちびり、と啜る様は、風流ですらある。
(…?何で、昼間っから酒なんか飲んでるんだ?道楽者だなぁ)
意外と礫は、常識人間だった。
礫は兎も角その酒飲みの和人の横を無言で通り過ぎると、酒場“海鳴り”の主人の目の
前に例の張り紙を突き付けて言った。
「主人[マスター]、この依頼の事なんだけど…連絡先とか解るか?」
傍らで、何気に耳を傾けている和人が居ることなど露知らず。
「あと、依頼料なんかも解ると有り難いんだけど」
礫は酒場の主人との交渉に、余念が無かった―。